
「2025年の崖」を越えて — レガシーシステム刷新の現在地と次の一手
Be A Racer Team
Author
2018年9月、経済産業省は『DXレポート』のなかで「2025年の崖」という言葉を世に問いました。古い基幹システムを刷新できなければ、2025年以降、日本全体で年間最大12兆円もの経済損失が生じる——。その2025年を越えた今、私たちはどこに立っているのでしょうか。
「2025年の崖」とは何だったのか
「2025年の崖」は、複雑化・ブラックボックス化したレガシーシステムを放置することのリスクを示した警告でした。経済産業省は当時、次の3点を主要な根拠として挙げています。
- 2025年までにIT人材は約43万人不足するという試算
- 大企業の基幹システムのうち、稼働から21年以上が経過したものが約6割に達する見込み
- 放置すれば年間最大12兆円の経済損失が発生しうるという警鐘
古いシステムは、保守費用の高騰、対応できる技術者の枯渇、そして新しいビジネス機会の喪失という「三重苦」を企業にもたらします。これは単なるIT部門の問題ではなく、経営の存続に直結するテーマでした。
2026年の現在地:崖は越えられたのか
2025年5月、経済産業省・IPAは『レガシーシステムモダン化委員会 総括レポート』を公表しました。そこに示された数字は、進歩と停滞の両面を映し出しています。
レガシーシステムを依然として使い続けている企業は約61%。大企業に限れば約74%がいまだ旧来技術に依存している。2018年の約80%からは減少したものの、刷新のスピードは依然として緩やかである。
つまり、「崖」は完全には越えられていません。さらに人材面の構造問題は深刻さを増しています。経済産業省は、2030年にはIT人材が最大79万人不足すると試算しています。レガシーを知るベテラン技術者の高齢化・退職が進み、システムの「属人化」によって改修に必要な技術情報そのものが失われつつあるのです。
モダナイゼーションを阻む「3+2」の壁
総括レポートは、刷新が進まない要因を「技術面の3つ」と「経営面の2つ」に整理しています。
技術面の3つの壁
- 老朽化:保守が難しい時代遅れの技術スタック
- 肥大化・複雑化:度重なる改修で巨大化したシステム
- ブラックボックス化:ドキュメント不足により、誰も全体像を把握できない状態
経営面の2つの壁
- 変化を拒む企業文化:現状維持を優先する組織の慣性
- IT投資の不足:刷新を「コスト」と捉え、戦略投資と見なさない姿勢
レポートは構造的な背景も指摘します。日本では技術者の約3割しかユーザー企業に在籍していません(米国は約7割)。社内に技術を持たない構造が、刷新の主体性を奪っているのです。
モダナイゼーション5つの手法と選び方
「刷新」と一口に言っても、アプローチはさまざまです。代表的な5手法を、目的・期間・リスクの観点で整理しました。
| 手法 | 内容 | 向くケース |
|---|---|---|
| リホスト | プログラムは変えず、稼働基盤だけを新環境(クラウド等)へ移す | まず運用コストを下げ、短期で効果を出したい |
| リファクタリング | 言語・機能は維持しつつ、コード内部の構造を改善する | 保守性を高めたいが全面刷新は避けたい |
| リライト | 最新言語でコードを根本から書き直す | 性能・拡張性・保守性を抜本的に向上させたい |
| リプレース | システムそのものを新製品・SaaSに置き換える | 標準機能で十分な業務領域 |
| リドキュメント | 仕様書を整備し、ブラックボックスを解消する | まず現状把握から始めたい |
重要なのは「一気に全部」ではなく、業務の重要度に応じて手法を組み合わせることです。標準業務はSaaSへ、競争力の源泉となる業務は丁寧にリライト——という切り分けが現実的です。
経済産業省が示す4つの対策
総括レポートは、企業が取るべき対策を4つにまとめています。
- 経営層の意識改革:予算を確約し、DXを長期経営計画に組み込む
- システムの見える化:IT資産を棚卸しし、刷新の優先順位を決める
- 標準化:標準機能と差別化機能を切り分ける
- IT人材の確保:内製エンジニアを育て、技術を社内に取り戻す
日系企業・中小企業がいま取るべき一歩
「崖を越えた」かどうかより大切なのは、明日から何をするかです。レガシー刷新を成功させる企業は、たいてい小さく始めています。
- 棚卸しから始める:すべてのシステムを一覧化し、「壊れたら事業が止まる」ものを特定する
- 優先順位をつける:影響度と老朽度のマトリクスで、最初に手をつける対象を決める
- 手法を選び分ける:全システムを同じ方法で扱わない。リホストとリライトを使い分ける
- パートナーと進める:社内人材が不足する領域は、信頼できる開発パートナーと共創する
AI時代において、レガシーシステムは「自社データをAIと結びつける」ことを阻む最大の障壁になりつつあります。モダナイゼーションは、過去の負債を返す作業であると同時に、これからの成長を解き放つ投資でもあるのです。崖はゴールではなく、新しい登り坂の始まりでした。
Tags
コメント
🗣️ コメントするにはログインしてください
Sign in to leave a comment and join the discussion